外郎売(ういろううり)本文ふりがな完全解説

外郎売(ういろううり)本文ふりがな完全解説 雑学・知識
外郎売(ういろううり)本文ふりがな完全解説

1. 外郎売とは何か

1.1 外郎売の概要

外郎売(ういろううり)は、江戸時代から伝わる「口上(こうじょう)」を巧みに操りながら薬を売る行商人、またはその商売を描いた芸能演目のことです。特に歌舞伎十八番の一つとして知られる『外郎売』は、役者が長大な早口言葉を披露することで有名で、発声練習や滑舌練習にもよく用いられています。

この「外郎(ういろう)」は現在では菓子の名としても知られていますが、本来はの名前です。特に鎮咳(咳止め)・健胃の効果があるとされ、室町時代末期から江戸時代にかけて広く販売されていました。

1.2 江戸時代における役割と背景

当時の商人は、商品をただ並べるだけではなく、声と話術で客を引き込む必要がありました。外郎売の口上は、その典型例で、商品の効能をユーモラスかつ勢いのある言葉で説明し、最後には見事な早口言葉で観客や通行人の耳を奪います。
現代でいうところの「プレゼンテーション」や「キャッチコピー」の原点とも言える技術が、この口上の中に詰まっています。

2. 外郎売の起源と歴史

2.1 実在した「外郎」という人物・家系

外郎薬は中国・元から来日した陳宗敬(ちんそうけい)を祖とする家系が製造販売していました。彼は博多に渡来後、京都・小田原と拠点を移し、やがて「外郎」と呼ばれるようになります。「外郎」の由来には諸説ありますが、元の役職名「礼部員外郎」にちなむとする説が有力です。

2.2 外郎薬と外郎菓子の関係

外郎薬は漢方薬で、胃腸の調子を整えるとともに声にも良いとされました。このため役者や語り部に愛用されたといいます。一方、外郎菓子は小田原や名古屋などで作られた米粉の蒸し菓子で、同じ家系や名称を持ちながらも別物です。両者は歴史的に交差しつつも、薬と菓子として独立して発展しました。

2.3 口上の成立と広まり

外郎薬を売るための口上は、もともとは薬効を伝える商売文句でした。これが芝居や大道芸に取り入れられ、やがて歌舞伎の演目『外郎売』として洗練されます。長大な台詞の中には商品説明、効能アピール、そして観客を楽しませる言葉遊びが巧みに盛り込まれています。

3. 歌舞伎における『外郎売』

3.1 初演と上演の歴史

『外郎売』は初代市川團十郎が上演した『曽我対面』の一幕として始まりました。團十郎の家系は歌舞伎十八番を定め、その中に『外郎売』が含まれています。江戸時代後期から現代に至るまで、役者の発声・滑舌・間合いを鍛える演目として大切に受け継がれています。

3.2 演目のあらすじ

物語は、曽我兄弟の仇討ちを題材とした「曽我物」の一幕で、外郎売に扮した曽我十郎が敵陣に潜入し、薬を売るふりをして口上を述べる場面が有名です。表向きは薬の説明ですが、裏では情報収集や相手の油断を誘う役割も果たしています。

3.3 登場人物と舞台設定

主役は外郎売(曽我十郎)。舞台上では立ち姿、扇の扱い、目線、発声がすべて計算されており、言葉だけでなく身体表現の妙も観客を魅了します。

4.外郎売の本文(ふりがな付き)

第一節

拙者(せっしゃ)親方(おやかた)と申(もう)すは、
お立合(たちあい)の内(うち)に、ご存(ごぞん)じのお方(かた)もござりましょうが、
お江戸(えど)を立(た)って二十里(にじゅうり)上方(かみがた)、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)一色町(いっしきまち)をお過(す)ぎなされて、
青物町(あおものまち)を登(のぼ)りへお出(いで)なされるれば、
欄干橋(らんかんばし)虎屋(とらや)藤右衛門(とうえもん)、只今(ただいま)は剃髪(ていはつ)いたして、円斎(えんさい)と名乗(なの)りまする。
元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)までお手(て)に入(い)れまするこの薬(くすり)は、
昔、陳(ちん)の国(くに)の唐人(とうじん)、外郎(ういろう)という人(ひと)、わが朝(ちょう)へ来(き)たり、
帝(みかど)へ参内(さんだい)の折からこの薬を深く籠(こ)め置き、用(もち)ゆる時(とき)は一粒(いちりゅう)ずつ、冠(かんむり)の隙間(すきま)より取り出す。
依(よ)ってその名(な)を帝より「透頂香(とうちんこう)」と賜(たまわ)る。
即(すなわ)ち文字(もんじ)には、頂(いただき)、透(す)く、香(におい)と書(か)きて、「とうちんこう」と申(もう)す。
只今(ただいま)はこの薬、殊(こと)の外(ほか)、世上(せじょう)に広まり、方々(ほうぼう)に似看板(にせかんばん)を出し、
いや、小田原の灰俵(はいだわら)の、さん俵(だわら)の、炭俵(すみだわら)のと、色々に申(もう)せども、
平仮名(ひらがな)をもって「ういろう」と記(しる)せしは、親方円斎(おやかたえんさい)ばかり。
もしやお立合の内に、熱海(あたみ)か塔ノ沢(とうのさわ)へ湯治(とうじ)にお出(で)なさるるか、
または伊勢参宮(いせさんぐう)の折からは、必ず門違(かどちが)いなされまするな。
お登(のぼ)りならば右の方、お下(くだ)りなれば左側(ひだりがわ)、
八方(はっぽう)が八つ棟(やつむね)、表(おもて)が三つ棟(みつむね)、玉堂造り(ぎょくどうづくり)、
破風(はふ)には菊に桐の御紋(ごもん)を御赦免(ごしゃめん)あって、系図正しき薬でござる。

第二節

いや、最前(さいぜん)より家名(かめい)の自慢ばかり申(もう)しても、
ご存(ごぞん)じない方には、正身(しょうしん)の胡椒(こしょう)の丸呑(まるのみ)、白川夜船(しらかわよふね)、
さらば一粒(いちりゅう)食べかけて、その気味合(きみあい)をお目(め)にかけましょう。
まずこの薬をかように一粒、舌(した)の上(うえ)に乗(の)せまして、腹内(ふくない)へ納(おさ)めますると、
いや、どうも言(い)えぬは、胃(い)、心(しん)、肺(はい)、肝(かん)がすこやかになりて、
薫風(くんぷう)咽(のんど)より来(き)たり、口中(こうちゅう)微涼(びりょう)を生(しょう)ずるが如(ごと)し。
魚鳥(ぎょちょう)、茸(きのこ)、麺類(めんるい)の食合(くいあ)わせ、
その外(ほか)、万病速効(まんびょうそっこう)ある事、神の如(ごと)し。
さて、この薬、第一の奇妙(きみょう)には、舌の回(まわ)る事が、銭(ぜに)独楽(ごま)が裸足で逃(に)げる。
ひょっと舌が回(まわ)り出(だ)すと、矢(や)も盾(たて)もたまらぬじゃ。

第三節

そりゃそりゃ、そらそりゃ、回(まわ)ってきたわ、回ってくるわ。
アワヤ咽、さたらな舌にカ牙サ歯音、
浜(はま)の二つは唇の軽重(けいじゅう)、開合(かいごう)さわやかに、
あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろを。
一つへぎへぎに、へぎ干(ほ)し、はじ噛(かみ)。
盆(ぼん)豆(まめ)、盆米(ぼんまい)、盆ごぼう、
摘蓼(つみたで)、摘豆(つみまめ)、摘山椒(つみさんしょう)、
書写山(しょしゃざん)の社僧正(しゃそうじょう)、
粉米(こごめ)のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米(こなまごめ)の小生噛(こなまがみ)、
繻子(しゅす)緋繻子(ひしゅす)、繻子(しゅす)、繻珍(しゅちん)、
親(おや)も嘉兵衛(かへい)、子(こ)も嘉兵衛(かへい)、親嘉兵衛子嘉兵衛、子嘉兵衛親嘉兵衛。
古栗(ふるくり)の木の古切口(ふるきりくち)。
雨合羽(あまがっぱ)か番合羽(ばんがっぱ)か、貴様(きさま)の脚絆(きゃはん)も皮脚絆(かわきゃはん)、我等(われら)が脚絆も皮脚絆。
しっかわ袴(ばかま)のしっぽころびを、三針(みはり)針長(はりなが)にちょと縫(ぬ)うて、ぬうてちょとぶん出(だ)せ。
かわら撫子(なでしこ)、野石竹(のぜきちく)。
野良如来(のらにょらい)、野良如来、三野良如来に六野良如来。
一寸先(いっすんさき)のお小仏(こぼとけ)におけつまずきゃるな。
細溝(ほそみぞ)にどじょニョロリ。
京(きょう)の生鱈(なまたら)、奈良(なら)の生学鰹(まながつお)。
ちょと四、五貫目(かんめ)。
お茶立ちょ茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ、
青竹茶筅(あおだけちゃせん)でお茶ちゃっと立ちゃ。

第四節

来(く)るわ来るわ何(なに)が来る、
高野(こうや)の山のおこけら小僧(こぞう)。
狸(たぬき)百匹(ひゃっぴき)、箸(はし)百膳(ひゃくぜん)、天目(てんもく)百杯、棒(ぼう)八百本(はっぴゃっぽん)。
武具(ぶぐ)、馬具(ばぐ)、三武具馬具(さんぶぐばぐ)、合わせて武具、馬具、六武具馬具。
菊(きく)、栗(くり)、三菊栗(さんきくくり)、合わせて菊栗、六菊栗。
麦(むぎ)、ごみ(ごみ)、三麦ごみ、合わせて麦ごみ、六麦ごみ。
あの長押(なげし)の長薙刀(ながなぎなた)は、誰(たが)が長薙刀ぞ。
向(むか)うの胡麻(ごま)がらは、荏(え)の胡麻がらか、真(ま)の胡麻がらか、
あれこそ本(ほん)の真胡麻殻(まごまがら)。
がらぴいがらぴい風車(かざぐるま)、
起(お)きゃがれこぼし、起きゃがれ小法師(こぼうし)。
ゆんべもこぼして又こぼした。
たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、
たっぽたっぽ一丁凧(いっちょうだこ)。
落(お)ちたら煮(に)て食(く)を、煮ても焼いても食われぬ物(もの)は、
五徳(ごとく)、鉄球(てっきゅう)、かな熊(ぐま)童子(どうじ)に、石熊(いしくま)、石持(いしもち)、虎熊(とらくま)、虎(とら)きす。
中(なか)にも東寺(とうじ)の羅生門(らしょうもん)には、茨木童子(いばらきどうじ)が腕栗(うでぐり)五合(ごごう)掴(つか)んでおむしゃるが、かの頼光(らいこう)の膝元(ひざもと)去(さら)ず。

第五節

鮒(ふな)、金柑(きんかん)、椎茸(しいたけ)、定(さだ)めて後(のち)段(だん)な、そば切(き)り、そうめん、
うどんか、愚鈍(ぐどん)な小新発地(しんぼち)。
小棚(こだな)の、小下(こした)の、小桶(こおけ)に、こ味噌(みそ)がこ有(ある)ぞ、
小杓子(こしゃくし)、こ持(も)って、こすくって、こよこせ、おっと合(が)点(てん)だ、
心得(こころえ)たんぼの川崎(かわさき)、神奈川(かながわ)、程ヶ谷(ほどがや)、戸塚(とつか)は、走(はし)って行(ゆ)けば、
やいとを摺(す)りむく、三里(さんり)ばかりか、藤沢(ふじさわ)、平塚(ひらつか)、大磯(おおいそ)がしや、小磯(こいそ)の宿(しゅく)を七つ起きして、
早天(そうてん)早々(そうそう)、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)透頂香(とうちんこう)。
隠(かく)れござらぬ貴賤(きせん)群衆(ぐんしゅう)の花(はな)のお江戸(えど)の花(はな)ういろう。
あれあの花を見(み)て、お心(こころ)をお和(やわ)らぎやという。
産子(うぶこ)、這子(はうこ)に至(いた)るまで、この外郎(ういろう)の御評判(ごひょうばん)、ご存(ごぞん)じないとは申(もう)されまい、
まいつぶり、角(つの)出(だ)せ、棒(ぼう)出せ、ぼうぼう眉(まゆ)に、臼(うす)、杵(きね)、すり鉢(すりばち)、バチバチぐわらぐわらぐわらと、
羽目(はめ)をはずして、今日(こんにち)お出(い)でのいずれも様(さま)に、
上(あ)げねば成(な)らぬ、売(う)らねば成(な)らぬと、息(いき)せい引(ひ)っぱり、
東方世界(とうほうせかい)の薬(くすり)の元(もと)締(し)め、薬師如来(やくしにょらい)もご照覧(しょうらん)あれと、
ホホ敬(うやま)って、ういろうは、いらっしゃりませぬか。

5. 外郎売と外郎菓子の文化的つながり

5.1 小田原・名古屋など各地の外郎

外郎菓子は米粉と砂糖を主原料にした蒸し菓子で、もっちりとした食感が特徴です。小田原外郎は薬の家系とつながりが深く、名古屋外郎は独自の製法で発展しました。

5.2 菓子と薬の共通点と違い

  • 共通点:どちらも「外郎」の名を冠し、贈答品や名物として親しまれた
  • 違い:薬は漢方薬、菓子は甘味。効能か嗜好かで用途が異なる

5.3 観光資源としての活用

外郎売の実演や口上は、地域の観光イベントや伝統芸能公演で披露され、外郎菓子とセットで販売されることも多いです。

6. 外郎売の現代的意義

6.1 伝統芸能教育での役割

外郎売は歌舞伎役者の登竜門的演目であり、日本語の美しさや表現力を学ぶ教材です。

6.2 朗読・滑舌練習教材としての普及

声優学校やアナウンススクールでは必修課題として採用されることもあります。

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